2018年1月14日日曜日

創めること。無事であること  -「老齢」を寿ぐ


 師走に飛び込んでくる喪中はがき、年明けにやってくる年賀状。前者は身近な人の消息が伝えられ、「年末年始のご挨拶はご遠慮申し上げます」。後者は、謹賀新年、迎春。「おめでとう。ご健康を祈ります」。こんなかたちでいつもの年越しバトン・リレーが続いている。
 ところが、私も75歳、れっきとした高齢者の一人。届く喪中はがきは年々増えて今年、数えてみたら14通も。「母、享年102歳」「父98歳」等の記述にはもう驚かないが、同世代からは「妻」や「夫」、兄妹の死が伝えられるようになった。また、賀状にも「92歳を前にして夫と老人ホームに居を移し終の住処とします」という転居通知を兼ねたものから、「高齢になり本年をもちまして新年のご挨拶を失礼させていただきます」の類も。それぞれに、身終いの気配が漂っている。
 ちなみに、わたしが賀状に記したメッセージは、亡き愛犬ロッシュの穏やかな涙目写真に「2018年。ご無事で」というものだった。

●創めること
 そんな年明けに小冊子『老老介護「いろは歌」』(私家版)が届いた。長野県諏訪市の平林英也さん(82歳)からの贈り物だった。20年ほど続けている諏訪湖半での「いのちのセミナー」に通っている方の、故人となった妻はるよさんとの晩年の交歓絵本。かつては優秀な精神科ナースだったという愛妻の認知症発症後の老老介護の日々(89歳没)が「いろは歌」の形式で遺されたのだった。

 「い」一日の始まりは、挨拶から
 夫「おはようございます」
 妻「今日はよろしくお願いします」
 この挨拶に続いて「夫婦の生年月日」「結婚記念日」に「住所」を毎朝、家内に言わせます。それは「今日」もいのちを与えられ、生きていることの証を、少しでも味わってほしかったためです。家内は、朝の挨拶のとき、よく言いました。
 「お互いに、どこも悪いところがなくて、よかったね」
 このことばを口にする家内は、幸せそのものでした。
 二人の気持ちがひとつになり、
 〈You are My Sunshine」をよく歌いました。

 綴られているのは、介護のつらさではない。「礼を言う妻のこころは、感謝の泉」とか「ゆ -豊かなこころは、忘却から」をあげてもいい。平林さんはいう。「わたしは、老老介護こそ〈新老人〉の生き方だとおもってやり遂げました」。どういうことだろうか。
〈新老人〉とは「次の世代若い人に、いつか来る人生の午後(老年期)のモデルになる」生き方が求められていた。105歳で亡くなった日野原重明さんが立ち上げた「新老人の会」の活動理念だった。
具体的なスローガンは、①愛し愛されること、②創(はじ)めること、③耐えること。なかでも、②は、何歳になっても「(なにかを)創めること」を忘れないこと。③の「耐えること」は人生の生き方が問われるもの。「耐える」という経験によって感性が磨かれ、不幸な人への共感と支える力が備わる。「新老人の会」は75歳以上をシニア会員、60歳以上をジュニア会員、20歳以上をサポート会員として、10年後(日野原さん100歳のとき)には10万人に達した。
平林さんは、この三つのスローガンに老老介護の原点を求めたのだった。とくに世間では否定的にとらえられる老老介護を「創める」ことは老人の「新しい生き方」に導くものにちがいない。それが〈新老人〉の生き方だ。「始まる」ではなく「創める」ということばに励まされて「いろは歌」が誕生したのである。

 ●無事であること
 ところで、私の賀状メッセージ「ご無事で」には、松飾りが街から消えたころ瀬戸内の島に住むK女がメールで応えてくれた。高校時代のクラスメートで、若いころから病いと戯れ、宥めてきたひとだ。
「ご無事で新年を迎えられた由。うれしくおもいます。この歳になると流石に次々といろんな事がありました。身内の死去や病気や怪我に心休まりません。7〜8月に危険な肺炎にかかり命の駆け引きをしましたが、相変わらず持ち前のしぶとさで復活しました。今は腰の問題を抱え年末にMRIをして一ヶ月ほど。…でもね、呑気に笑って本を読んでのおばあさん暮らしは少し早い。(笑)
 毎日家の周りにくる野鳥に癒されています。デッキにヤマガラ・シジュウガラ・メジロ・シロハラ・ツグミ・ヒヨドリ・ジョウビタキ・イソヒヨドリが常時きて賑やかです。トラツグミも姿を見せラッキーでした。ぶとカラス・ほそカラスや雀の群れもホオジロも来ています。
 今年はキジバトが玄関前の大きなトネリコの木に二度営巣し、見守るうち雛鳥の姿も見ましたが、周辺に居続けるハシブトカラスに襲われたらしく、巣立ちまでを見届けることは出来ませんでした。これは悲しい出来事の一つでした。まずは呑気な鳥談義でご挨拶を 又」

 「無事」はいのちの現在。老いにはかけがえのない力を誘うものなのである。無事の一年を祈ろう。